アストロラーベの使い方 | Luminareo

アストロラーベの使い方

2018-09-20

アストロラーベの使い方

10世紀のペルシャ人の天文学者・アッ=スーフィー(*903頃〜†986)は、アストロラーベの使用法を1700以上の章に渡ってまとめたと伝えられますが(しかし現存するのは全170章の縮小版なのだそうな)、代表的な使用法のうちからいくつかを紹介します。

なお、この図解では全て、北緯35度用のティンパンを使って説明をしてます。
別の緯度用のティンパンでは割り出される時刻が結構変わってくるですよ。


「解説文見てるだけじゃしょうがねえよ、実際に手元で回してみてえよ」という方へ……

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任意の日の太陽の位置を知る

裏面にあるカレンダー目盛りと黄経目盛りから任意の日の太陽の黄経が割り出せます。
アストロラーベの表面が表しているのは南回帰線より北の全天で、リートの十二宮環の外側の縁が太陽の軌道を、十二宮環上の黄経目盛りが対応する太陽の位置を表しています。

例えば、12月31日の太陽の位置を調べてみます。

  1. 裏面の円周のカレンダー目盛りで、12月31日を探します。
  2. その12月31日の位置にあたる黄経目盛りを読みます。
    この日の太陽は磨羯宮9度あたりにあるということが分かります。これが12月31日の黄経にあたります。
    任意の日の太陽の位置1
  3. それから表に返し、リート上の黄経目盛りから、磨羯宮9度の目盛りを探します。
    磨羯宮9度の目盛りの位置が、南回帰線より北の全天における12月31日の太陽の位置にあたります。
    任意の日の太陽の位置2
  4. 例えば、この日の日の出や日没の時刻をアストロラーベで調べることができます。
    ルールを動かし、リート上の磨羯宮9度の目盛り(12月31日の太陽の位置)にあて、リートに固定します。
    そしてその状態で、ルールごとリートを回転させます。
    東の地平線(向かって左側にある)に磨羯宮9度の目盛りが重なるところでリートを止めると、ルールの先が一番外側の時刻目盛りで12月31日の日の出の時刻を指しています。
    北緯35度での場合、12月31日の日の出(太陽の中心が地平線と重なる時刻)は観測地の地方時で7時10分ごろということになります。
    ところで、アストロラーベで扱う時刻は常に地方時になるので、標準時での時刻との時差に注意してください。
    たとえば、日本標準時に合わせるなら東京では読みとった時刻から20分差し引く必要があります。
    任意の日の太陽の位置3
  5. 同様に、西の地平線(向かって右側)に磨羯宮9度の目盛りが重なるまでリートを回転させれば、ルールの先は12月31日の(観測地の地方時での)日没時刻を指します。

現在の太陽の高度から現在時刻を知る

裏面のアリダードに視準孔(のぞき穴)のあるアストロラーベを使います。

  1. まず裏面の円周内側のカレンダー目盛りと黄経目盛りから、今日の太陽の黄経を調べます。
    例えば、今日が4月10日だとすると、太陽はおよそ白羊宮20度弱にあります。
    現在時刻の算出1
  2. 裏面のアリダードを使って、現在の太陽の高度を測定します。
    この時、視準孔で直接太陽を見たらダメです。
    視準孔の影を地面や手のひらに落とし、2つの穴の影がピタリと重なるようにアリダードを回転させます。
    たとえば、この時は午前中で、太陽の高度は50度だったとします。
  3. アストロラーベを表に返し、ルールを今日の太陽の黄経にあたる目盛りにあて、その位置でリートに固定します。
  4. ティンパンの等高度線を見ながらルールごとリートを回し、リートの今日の太陽黄経の目盛りを、2. で測定した高度にあたる位置に合わせます。
    同じ高度にあたる箇所が2か所ありますが、午前中であれば東側、午後であれば西側の位置に合わせます。
    現在時刻の算出2
  5. そのときルールの先が指している、一番外側の時刻の目盛りが、大まかな現在時刻です。
    北緯35度で4月10日の午前中に太陽が50度の高さに来る時は、時刻はおよそ9時50分ごろということになります。
    ところで、アストロラーベで扱う時刻は常に地方時なので、標準時での時刻を知るには時差を加味する必要があります。
    たとえば、東京なら読みとった時刻から20分差し引くと、日本標準時での時刻となります。

実は、現在の時計と時刻合わせをすると、地方時の時差を差し引いてもかなりの誤差があり、季節によっては15分程度の差が生じることもあります。
これは太陽が見かけ上「アナレンマ」と呼ばれる8の字運動をしていて、季節により太陽の南中時刻が変化するためです。

…そんなん昔って時間にアバウトだったのか? …いやいやいやいや、そういう訳じゃないんだな。
今は原子時計によって時間を決めてるもんだから、正午に太陽が南中するのしないのという話になってしまった訳であって、大昔では「太陽が南中した時こそがとにかく正午!」だったのよ!!

自分のアセンダントを調べる

アセンダント(上昇宮)とは、人が出生した瞬間(あるいは任意の瞬間)の、黄道と地平線の東の交点の黄経のことです。

西洋占星術では非常に重視されるポイントで、出生ホロスコープの場合、本人の身体的特徴や体質・生まれ持った性質を象徴します。
……元々はアストロラーベが使われた時代の天文学において、このアセンダントが実に重要視されてました。
そのため昔のどのでもアセンダントの説明にはかなり力が入ってます。
正直、アストロラーベの使用法だけじゃなく17世紀以前の天文学の文献は、占星術用語の意味が頭に入ってないと正確な読解は出来んとです。それがイスラム天文学であってもです。
理科趣味の人が星占いを迷信と馬鹿にすることに文句はないですが、理科がお好きなら作り方の解説のサインコサインで回れ右せんといて?

なお、地平線は1日でほぼ一周しますので、アセンダントを知るには出生時刻が必要です。
出生時刻は母子手帳で確認しましょう。
ところでアストロラーベの操作では常に地方時を扱うので、出生時刻に標準時との時差を加味する必要があります。
たとえば東京で生まれた方なら記載された出生時刻に20分追加してください。

例えば、北緯35度の場所で5月7日の朝10時に生まれた人のアセンダントを調べてみます。

  1. 裏面の円周内側のカレンダー目盛りで、5月7日を探します。
  2. その5月7日の位置にある黄道十二宮の目盛りを読みます。
    この日の太陽は金牛宮16度あたりにあるということが分かります。
    任意の日時の上昇宮1
  3. それから表に返し、リートの内側の黄道目盛りで金牛宮16度の位置を探し、そこにルールを当てます。
    任意の日時の上昇宮2
  4. その位置でルールをリートに固定し、ルールの先をリートごと回して一番外側の24時間目盛りで出生時刻に合わせます。
  5. そこで東の地平線とリートの黄道目盛りが交差する点を探すと、大体巨蟹宮27度が地平線にあります。
    従って、北緯35度の場所で5月7日の朝10時に生まれた人のアセンダントは、巨蟹宮27度であるということが分かります。
    任意の日時の上昇宮3

出生時刻が分からないとアセンダントが出せませんが、そんな場合は誕生日の日の出の時刻を仮の出生時刻とすることが多いです。

任意の日にシリウスが昇る時刻を調べる

  1. 裏面のカレンダー目盛りと黄経目盛りから、調べたい日の黄経を割り出しておきます。
    例えば1月25日にシリウスがいつ昇るかを調べるとすると、まず1月25日の黄経は宝瓶宮4度あたりです。
    恒星が昇る時刻1
  2. 表面で、リートのシリウスの位置を確かめます。
    (このサイトの解説図のリートの恒星はパーツ解説のページを参照
    恒星が昇る時刻2

    リートを回して、このシリウスの位置を東の地平線に合わせます。
  3. リートをその位置に固定して、ルールを1. で割り出した黄経の目盛りに合わせます。
    恒星が昇る時刻3
  4. ルールの指す先が、その日にシリウスが東から昇る時刻です。
    1月25日の北緯35度の場所では、シリウスが東の地平線から昇るのは、観測地の地方時で夕方のおよそ5時8分頃となります。

現在の太陽光度から不定時法による時刻を見積もる

不定時法とは、日の出から日没までの日中の長さと日没から日の出までの夜間の長さをそれぞれ6等分し、それを1時間とする時法です。
古代より世界各地で使われた時法で、日本でも江戸時代に使われていました。

そしてアストロラーベ背面の上半分ないし1つの象限には太陽高度−不定時曲線がよく描かれますが、これは現在の太陽高度から不定時法での時刻を割り出すためのスケールです。

  1. まず、現在地におけるその日の正午の太陽高度(南中高度)を求めます。
    これはその日の太陽黄経を求め、アストロラーベの表面から割り出します。
  2. 例えば、現在地の緯度は北緯35度でその日は9月12日であるとします。
    背面のカレンダー目盛りからその日の太陽黄経はおよそ処女宮19度であることが分かります。
    任意の日の太陽の位置4
  3. 表面でリートを回転させて処女宮19度の目盛りを子午線に合わせると、その目盛りは等高度線で約59度の高度にあります。
    つまり北緯35度の土地で9月7日の太陽の南中高度は約59度です。
    任意の日の太陽の南中高度
  4. 背面の不定時曲線で、まずアリダードを先ほど割り出した南中高度(今の例では59度)まで回転させます。
    そして一番内側の曲線(円)と交わる点で、アリダードにインクで印をつけます。
    任意の日に太陽高度から不定時での時刻を見積もる1
  5. それから現在の太陽高度を測って、現在は不定時で何時にあたるかを調べます。
    アリダードを現在の太陽高度の位置に合わせ、インクでつけたで印が太陽高度−不定時曲線のどの線の間にあるかを見ます。
    例えば、アリダードでそのとき太陽高度を測定すると31度であったとします。
    そのままアリダードを高度目盛りの31度に合わせると、印は下から3番目の区域の中央あたりにきています。
    そこからその時の不定時法での時刻は、午前であればおよそ3時間目の中頃、午後であればおよそ10時間目の中頃ということがわかります。
    任意の日に太陽高度から不定時での時刻を見積もる2

なお、このスケールは厳密には赤道上のみで正確であり、緯度が上るにつれて誤差が生じてきます。
しかし不定時法が使われていた時代の時間感覚は現代と違ってアバウトだったので、誤差があることが認識されなかったか、誤差はあっても深刻な齟齬が起きなかったであろうと考えられています。
とは言っても、北緯50度くらいまではおおよそ通年で問題なく使えますが、それ以上の緯度では特に夏至の前後で使用に耐えられないレベルの誤差が出てくるのでご留意ください。

三角関数を計算する

シャドウ・スクエアとは、特に三角測量(三角比を使って目標物の高さや距離などを求める方法)で使われた目盛りで、アストロラーベの裏面によく描かれました。
正方形の縦横の辺を12等分(もしくは7等分、10等分など)したもので、このシャドウ・スクエアとアリダートと三角比によって、塔などの目標物の高さなどを調べることができました。

  1. 裏面の下半分のシャドウ・スクエアを使います。
    シャドウ・スクエアの正方形の一辺の長さをあらかじめ測っておきます。
  2. たとえば、コサイン25度を測ります。
    まず、水平を0度・垂直を90度として、アリダードを下へ回して25度のところで止めます。
  3. シャドウ・スクエアの目盛りとアリダードがぶつかるところに印をつけ、中心からの印までの長さを測ります。
    三角関数の算出
  4. 1. の長さを、3. で測った長さで割った値がコサイン25度です。

三角関数は天体の角度の測定では必須の関数です。誰だ「三角関数なんて使わねえから習う意味ねえ」とか言ってるのは……
そのため、いちいち印をつけなくても長さを測れるように、アリダードに長さの目盛りがついているアストロラーベもありました。

シャドウ・スクエアを使って塔の高さを調べる

裏面のアリダードに視準孔(のぞき穴)のあるアストロラーベを使います。

例えば、1辺が12等分されているシャドウ・スクエアを使って、塔の高さを調べます。

  1. アリダードを、シャドウ・スクエアの目盛りの2に合わせ、固定します。
    目標物の高さの算出1
  2. 塔の近くまで行き、アリダードの視準孔を覗きながら、2つの視準孔を通して塔の先端が見える場所を探します。
    見つかったらその場所の地面に印をつけます。
    目標物の高さの算出2
  3. 塔の根元から2. で付けた印までの直線距離を測ります。
  4. 3. で出た距離を6倍し、そこに自分の目の高さを足すと、それが求める塔の高さとなります。