Luminareo

アストロラーベの作り方

2019-04-22

アストロラーベの作り方

アストロラーベを作るための考え方と、製図方法を日本語でガチ解説しますた。
基本となる理屈といい、製図方法といい、よくて英語・どうかすると仏語だったけど、ヘロヘロになりながら読み解いたぜ。

正直かなりの労力がかかってましてこれをタダで大公開とか我ながらどうかした気がしないでもないですが……でもこれ結局「事実の羅列」だもんな。まあいいや。

しかしちょっと込み入った話になると途端にリファレンスが英語だらけってのは、魔術書とか占術書だけの話じゃないっすね。
学術書とか技術解説書とかもうみんなそうです。
ドちくしょぉぉぁぁぁぁ!!日本語で書いてくれ!!!!!!


それはそうと、アストロラーベの解説って、どうかすると仏語が充実してるのは一体何なんでしょうか。
(例えば仏語版Wikipediaの「Astrolabe planisphérique」とか)
瀬野、独語だったらそこそこだけど仏語はサッパリパリなもんで、読めない解説を眺めつつ唇を噛む毎日でした。
だがようやくそんな日々ともオサラバだぜ!!

そして、「三角関数なんて社会でたら使わねえよ!」とはよく言われる話ですが。
瀬野は「いやサイン・コサインは割と使うょ?」とは思ってましたが、「三角関数の加法定理こそ大学出たら永遠にサヨナラじゃ」と思ってました。
……それが、こんなところでボリボリ使いまくるとは夢にも思いませんでした。

あと、こんな、要は文系趣味に突っ走ったWebサイトに \( \mathrm{\LaTeX} \) で数式をゴリゴリ書いて載せる日が来るとか、全く!全然!!思わんかったわ!!!暗○通信団の同人誌か。

アストロラーベの作り方・目次

ステレオ投影の基本

アストロラーベの製図では、「ステレオ投影」という製図法が使われます。

ステレオ投影とは、球面上にあるものを平面に投影して表示する製図方法のことです。
ステレオ図法、平射図法、正角方位図法とも呼ばれます。
球面上にある一点を視点として、その球面上にある図形を、任意の平面へ投射して写し取ります。

ステレオ投影図

この投影法の何がいいかというと、写し取った後の図で角度が保存されることです。
つまり、天球での恒星間の角度や黄経、地平座標の仰角や方位角といった球面上での角度による座標値が、平面に写し取った対応座標を使っても有効に働きます。

ステレオ投影では、角度が保存されますが、距離や長さは保存されません。
しかしながら、天体観測では天体の位置は角度だけで表現されるものなので、平面に投射した2点間の長さは変わってしまっても無問題というわけです


北半球用のアストロラーベでは、黄道と星図を天球の南極から天の赤道面へ投射して北極側から見たもの(リート)と、地平座標を地球の南極から地球の赤道面へ投射して北極側から見たもの(ティンパン)が使われます。
(南半球用のアストロラーベでは、北極から赤道面へ投射して南極側から見たものが使われます)

南北の回帰線と赤道

まず、地上側(ティンパン)・天球側(リート)に共通の、南回帰線・赤道・北回帰線を製図します。

投射の基本的な考え方は、下図のようになります。

南北の回帰線と赤道1

数式的に言えば、以下の数式で表わされます。

  • 黄道傾斜角を \( \varepsilon \) とすると……
    (2000年1月1日正午の \( \varepsilon \) の具体値は 23度26分21.406秒 = 23.4392794444度)
  • 赤道の円の半径:
    \[ R_{eq} = R_{cap} \tan \left( \frac{90 - \varepsilon}{2} \right) \]
  • 北回帰線の円の半径:
    \[ R_{can} = R_{eq} \tan \left( \frac{90 - \varepsilon}{2} \right) \]
  • 南回帰線の円の半径:
    \[ R_{cap} = R_{eq} \tan \left( \frac{90 + \varepsilon}{2} \right) \]

幾何学的に作図するには、作りたいアストロラーベの大きさを決め、それを元にまず南回帰線の円(南半球用のアストロラーベでは北回帰線)の半径 \( R_{cap} \) を決めます。
リートとティンパンともに南回帰線の円を同じ大きさで、自分で任意の大きさに決めます。
そして、この円を元に作図をしていきます。

南北の回帰線と赤道2

次に、円の中心 \( O \) を通り、垂直から \( \varepsilon \) 度(黄道傾斜角分)傾いた線を引きます。

その線と南回帰線の円との交点を \( A \) とし、線 \( A r_1 \) と線 \( O r_2 \) の交点を \( B \) とすると、線分 \( O B \) の長さは \( R_{eq} \) となります。
つまり \( O \) を中心とする半径\( O B \) の円が赤道の円となります。

次に、線 \( O A \) と赤道の円との交点を \( C \) とし、線 \( C r_3 \) と線 \( O r_2 \) の交点を \( D \) とすると、線分 \( O D \) の長さが \( R_{can} \) となります。
つまり \( O \) を中心とする半径\( O D \) の円が北回帰線の円となります。

ティンパンの製図

アストロラーベの地上側にあたる、ティンパンを製図します。
前項で作図した南回帰線・赤道・北回帰線に、地平座標である等高度線・等方位角線と、不定時法の区分線などを描き加えます。

ティンパンは緯度ごとに製図されます。

天頂・地平線・等高度線

ある緯度 \( \varphi \) における天頂・地平線・等高度線の製図方法です。
まずは、天頂の位置と地平線が下図の通りにして導き出されます。

天頂・地平線・等高度線1

赤道円の中心(=ティンパンの中心)を原点 \( O \) として、緯度 \( \varphi \) 度の地平線が投射された円の各点の座標を数式で表すと、以下のようになります。

  • \( O \) から最も遠い点 \( Rl_{\varphi} \) の座標:
    \begin{align} Rl_{\varphi} &= R_{eq} \tan \left( 90 - \frac{\varphi}{2} \right) \\ &= R_{eq} \cot \frac{\varphi}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{\tan \frac{\varphi}{2}} \end{align}
  • \( O \) に最も近い点 \( Rs_{\varphi} \) の座標:
    \[ Rs_{\varphi} = - R_{eq} \tan \frac{\varphi}{2} \]
  • 地平線円の半径:
    \begin{align} & \frac{Rl_{\varphi} - Rs_{\varphi}}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{1}{\tan \frac{\varphi}{2}} + \tan \frac{\varphi}{2} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{\cos \frac{\varphi}{2}}{\sin \frac{\varphi}{2}} + \frac{\sin \frac{\varphi}{2}}{\cos \frac{\varphi}{2}} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2 \sin \frac{\varphi}{2} \cos \frac{\varphi}{2} } \\ &= \frac{R_{eq}}{\sin \varphi} \end{align}
  • 地平線円の中心 \( Rc_{\varphi} \) の座標:
    \begin{align} Rc_{\varphi} &= Rl_{\varphi} - \frac{Rl_{\varphi} - Rs_{\varphi}}{2} \\ &= \frac{Rl_{\varphi} + Rs_{\varphi}}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{1}{\tan \frac{\varphi}{2}} - \tan \frac{\varphi}{2} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{\cos \frac{\varphi}{2}}{\sin \frac{\varphi}{2}} - \frac{\sin \frac{\varphi}{2}}{\cos \frac{\varphi}{2}} \right) \\ &= R_{eq} \frac{\cos^2 \frac{\varphi}{2} - \sin^2 \frac{\varphi}{2}}{2 \sin \frac{\varphi}{2} \cos \frac{\varphi}{2}} \\ &= R_{eq} \frac{\cos \varphi}{\sin \varphi} \\ &= \frac{R_{eq}}{\tan \varphi} \end{align}

緯度 \( \varphi \) 度の天頂が投射された点 \( Z_{\varphi} \) の座標は、以下の通りです。

  • \( Z_{\varphi} \) の座標:
    \[ Z_{\varphi} = R_{eq} \tan \frac{90 - \varphi}{2} \]

あとは地平線からの仰角に合わせ、等高度線を以下のように導き出します。
トワイライト・ラインは地平線の下・俯角18度に相当します。

天頂・地平線・等高度線2

緯度が \( \varphi \) 度のときの、仰角 \( h \) 度に対応する等高度線の各点の座標を数式で表すと、以下のようになります。

  • \( O \) から最も遠い点 \( Rl_{\varphi h} \) の座標:
    \begin{align} Rl_{\varphi h} &= R_{eq} \tan \left( 90 - \frac{\varphi + h}{2} \right) \\ &= R_{eq} \cot \frac{\varphi + h}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{\tan \frac{\varphi + h}{2}} \end{align}
  • \( O \) に最も近い点 \( Rs_{\varphi h} \) の座標:
    \[ Rs_{\varphi h} = - R_{eq} \tan \frac{\varphi - h}{2} \]
  • この等高度線円の半径:
    \begin{align} & \frac{Rl_{\varphi h} - Rs_{\varphi h}}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{1}{\tan \frac{\varphi + h}{2}} + \tan \frac{\varphi - h}{2} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{\cos \frac{\varphi + h}{2}}{\sin \frac{\varphi + h}{2}} + \frac{\sin \frac{\varphi - h}{2}}{\cos \frac{\varphi - h}{2}} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \frac{ \cos \frac{\varphi + h}{2} \cos \frac{\varphi - h}{2} + \sin \frac{\varphi + h}{2} \sin \frac{\varphi - h}{2}}{\sin \frac{\varphi + h}{2} \cos \frac{\varphi - h}{2}} \\ &= R_{eq} \frac{ \frac{\cos \varphi + \cos h}{2} - \frac{\cos \varphi - \cos h}{2}}{\sin \varphi + \sin h} \\ &= R_{eq} \frac{\cos h}{\sin \varphi + \sin h} \end{align}
  • この等高度線円の中心 \( Rc_{\varphi h} \) の座標:
    \begin{align} & Rc_{\varphi h} = Rl_{\varphi h} - \frac{Rl_{\varphi h} - Rs_{\varphi h}}{2} \\ &= \frac{Rl_{\varphi h} + Rs_{\varphi h}}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{1}{\tan \frac{\varphi + h}{2}} - \tan \frac{\varphi - h}{2} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{\cos \frac{\varphi + h}{2}}{\sin \frac{\varphi + h}{2}} - \frac{\sin \frac{\varphi - h}{2}}{{\cos \frac{\varphi - h}{2}}} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \frac{\cos \frac{\varphi + h}{2} \cos \frac{\varphi - h}{2} - \sin \frac{\varphi + h}{2} \sin \frac{\varphi - h}{2}}{\sin \frac{\varphi + h}{2} \cos \frac{\varphi - h}{2}} \\ &= R_{eq} \frac{\frac{\cos \varphi + \cos h}{2} + \frac{\cos \varphi - \cos h}{2}}{\sin \varphi + \sin h} \\ &= R_{eq} \frac{\cos \varphi}{\sin \varphi + \sin h} \end{align}

幾何学的に作図するには、赤道円を使って下図のようにします。
まず、円の中心を通り、水平から下方へ緯度分の \( \varphi \) 度傾いた線を引きます。

これを地平線として、赤道の円の縁に、天頂までの仰角を目盛っていきます。
この時、必ず同じ仰角にあたる2点を1セットとして目盛ります。

天頂・地平線・等高度線3

赤道の円上にある、中心を通る水平な線との交点を \( r_3 \) とします。
点 \( r_3 \) から1つの仰角に対応する2点のそれぞれを通る線を引き、これらの2本の線と、円の中心を通る垂線との交点を出します。
この2個の交点が直径となるように円を描くと、それがその仰角に対応する等高度線となります。

等方位角線

緯度 \( \varphi \) における等方位角線の製図方法です。

その前に、方位角を何度ごとにとるかを決めておきます。
一般的だったのは方位角10度ごと・36方位でした。
なお、最古期のアストロラーベには等方位角線はなかったり、もうちょっと時代が下ると40方位(方位角9度ごと)とか72方位(方位角5度ごと)なんてのもあったり、チョーサーの「アストロラーベに関する論文」だと24方位(方位角15度ごと)と記載されてたりします。
過去のアストロラーベでは見かけませんが、今のCAD製図なら一般的な羅針図に合わせて16方位(方位角22.5度ごと)とか32方位(方位角11.25度ごと)みたいなこともできんじゃないかと思います。知らんけど。


まず、天底(俯角90度)が投射される点 \( N_{\varphi} \) を導き出します。

等方位角線1

それぞれの等方位角線は必ず、先に出した天頂の投射点 \( Z_{\varphi} \) とこの \( N_{\varphi} \) の2点を通る円となります。
そして、全ての等方位角線の中心は必ず、線分 \( Z_{\varphi} N_{\varphi} \) の中心 \( Ac_{\varphi} \) を通る、 \( Z_{\varphi} N_{\varphi} \) に垂直な線上にあります。

特に、 \( Z_{\varphi} N_{\varphi} \) を通る直線は、真北・真南(方位角90度・270度)方向を示す等方位角線となります。
また、線分 \( Z_{\varphi} N_{\varphi} \) を直径とする円は、真東・真西(方位角0度・180度)方向を示す等方位角線となります。


方位角 \( a \) 度− \( ( 180 + a ) \) 度方向にあたる等方位角線の作図方法は、以下の通りです。

天頂 \( Z_{\varphi} \) と天底 \( N_{\varphi} \) の位置を出し、真東・真西方向の等方位角線の円と、その中心 \( Ac_{\varphi} \) を通り線 \( Z_{\varphi} N_{\varphi} \) に垂直な直線 \( Y_{\varphi} \) とを作図します。

等方位角線2

そして、天頂 \( Z_{\varphi} \) を通る、線 \( Z_{\varphi} N_{\varphi} \) から \( a \) 度傾いた線を引きます。
この線と直線 \( Y_{\varphi} \) の交点を \( Ac_{\varphi a} \) とします。
この点 \( Ac_{\varphi a} \) を中心とする、半径 \( Z_{\varphi} Ac_{\varphi a} \) の円が、求める方位角 \( a \) 度− \( ( 180 + a ) \) 度方向の等方位角線の円となります。
先にも書きましたが、方位角90度方向の等方位角線は\( Z_{\varphi} N_{\varphi} \) を通る直線であり、円ではありません。


緯度が \( \varphi \) 度のときの、方位角 \( a \) 度に対応する等方位角線の各点の座標を数式で表すと、以下のようになります。

  • 天頂 \( Z_{\varphi} \) の座標(前出):
    \[ Z_{\varphi} = R_{eq} \tan \frac{90 - \varphi}{2} \]
  • 天底 \( N_{\varphi} \) の座標:
    \[ N_{\varphi} = - R_{eq} \tan \frac{90 + \varphi}{2} \]
  • 方位角0度の等方位角線の円の半径:
    \begin{align} & \frac{Z_{\varphi} - N_{\varphi}}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \tan \frac{90 - \varphi}{2} + \tan \frac{90 + \varphi}{2} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{\sin \frac{90 - \varphi}{2}}{\cos \frac{90 - \varphi}{2}} + \frac{\sin \frac{90 + \varphi}{2}}{\cos \frac{90 + \varphi}{2}} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \frac{\sin \frac{90 - \varphi}{2} \cos \frac{90 + \varphi}{2} + \sin \frac{90 + \varphi}{2} \cos \frac{90 - \varphi}{2}}{\cos \frac{90 + \varphi}{2} \cos \frac{90 - \varphi}{2}} \\ &= R_{eq} \frac{\frac{\sin 90 - \sin \varphi}{2} + \frac{\sin 90 + \sin \varphi}{2}}{\cos 90 + \cos \varphi} \\ &= \frac{R_{eq}}{\cos \varphi} \end{align}
  • 方位角0度の等方位角線の円の中心 \( Ac_{\varphi} \) の座標:
    \begin{align} & Ac_{\varphi} = Z_{\varphi} - \frac{Z_{\varphi} - N_{\varphi}}{2} \\ &= \frac{Z_{\varphi} + N_{\varphi}}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \tan \frac{90 - \varphi}{2} - \tan \frac{90 + \varphi}{2} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \frac{\sin \frac{90 - \varphi}{2}}{\cos \frac{90 - \varphi}{2}} - \frac{\sin \frac{90 + \varphi}{2}}{\cos \frac{90 + \varphi}{2}} \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \frac{\sin \frac{90 - \varphi}{2} \cos \frac{90 + \varphi}{2} - \sin \frac{90 + \varphi}{2} \cos \frac{90 - \varphi}{2}}{\cos \frac{90 + \varphi}{2} \cos \frac{90 - \varphi}{2}} \\ &= R_{eq} \frac{\frac{\sin 90 - \sin \varphi}{2} - \frac{\sin 90 + \sin \varphi}{2}}{\cos 90 + \cos \varphi} \\ &= - R_{eq} \frac{\sin \varphi}{\cos \varphi} \\ &= - R_{eq} \tan \varphi \end{align}
  • 方位角 \( a \) 度の等方位角線の円の半径:
    \begin{align} & \frac{Z \varphi - N \varphi}{2} \frac{1}{\cos a} \\ &= \frac{R_{eq}}{\cos \varphi \cos a} \end{align}
  • \( Ac_{\varphi} \) から、方位角 \( a \) 度の等方位角線の中心 \( Ac_{\varphi a} \) までの距離:
    \begin{align} & \frac{Z \varphi - N \varphi}{2} \tan a \\ &= R_{eq} \frac{\sin a}{\cos \varphi \cos a} \end{align}

不定時法の区分線

ティンパンの、地平線より上にあたる部分の地平座標の製図は以上です。
以下より、地平線より下で北回帰線円より外側にあたる部分に、不定時法による時刻の区分線を作図します。

この線の考え方としては、南回帰線円と北回帰線円の間にある、その中心に同心な任意の大きさの円を考えます。
この円から地平線円と重なる部分を切り取り、残った弧を12等分します。
この分割点のそれぞれを結んでできる曲線が、不定時法の区分線となります。

不定時法の区分線1

この分割点を結んでできる曲線は厳密には円弧ではないのですが、円弧に非常に近く、円として作図しても誤差がほとんどありません。
そのためこの区分線は過去には、北回帰線円の弧・赤道円の弧・南回帰線円の弧をそれぞれ12等分し、対応する時刻の区分点に当たる北回帰線円上の点・赤道円上の点・南回帰線円上の点の3点を通る円を描くことによって作図されてきました。

不定時法の区分線2

この不定時法の区分線を数式で表すのは相当な力技になるので、ここでは割愛します。


ティンパンにはさらに、本来のレジオモンタナス・システム(天の赤道を12分割)あるいは変形レジオモンタナス・システム(卯酉線を12分割)によるハウス分割線が描き込まれることがありました。
ただ、この「ハウス分割とはなんぞや」という話は、占星術の基本概念に絡むため説明すると話が盛大に横道にそれることと、算出法は古来より現在まで紛糾しており術者・地域・手法によって使われるものが違うというレベルの泥沼でして、こういう器具に一律に描き込むのが正しいとは全く思えないため、ここではハウス分割線のことは割愛します。

まあ、占星術のハウス分割について分かってるなら、本来のレジオモンタナス・システムによるハウス分割線は不定時法の区分線の引き方を、変形レジオモンタナス・システムによるハウス分割線は等方位角線の引き方を、地平線の円の真南と真北の点を使ってやれば良いだけなんで、ほぼ先の説明の繰り返しです。

リートの黄道の製図

さて、アストロラーベの天球側にあたる、リートの製図に入ります。

最初に作図した南回帰線・赤道・北回帰線をそれぞれ天の南回帰線・天の赤道・天の北回帰線として、そこに黄道を描き加えていきます。
黄道は赤道面へ下図のように投射されます。

黄道1

黄道の投射された円は、数式で以下のように表されます。

  • 黄道の円の半径:
    \begin{align} & \frac{R_{cap} + R_{can}}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \tan \left( \frac{90 + \varepsilon}{2} \right) + \tan \left( \frac{90 - \varepsilon}{2} \right) \right) \\ &= \frac{R_{eq}}{\cos \varepsilon} \end{align}
  • 黄道の円の中心 \( E_c \) の座標:
    \begin{align} E_c &= R_{cap} - \frac{R_{cap} - R_{can}}{2} \\ &= \frac{R_{cap} - R_{can}}{2} \\ &= \frac{R_{eq}}{2} \left( \tan \left( \frac{90 + \varepsilon}{2} \right) - \tan \left( \frac{90 - \varepsilon}{2} \right) \right) \\ &= R_{eq} \tan \varepsilon \end{align}

リートの黄道に黄経目盛りを付けます。
まずは黄道上にある黄経 \( \lambda \) 度の点の赤経を算出します。

黄道2

黄道上の黄経 \( \lambda \) 度の点 \( l \) を通る子午線と、赤道面との交点を \( e_l \) とすると、春分点から \( e_l \) までの角度が求める赤経 \( \alpha_{\lambda} \) です。
\( \lambda \) と \( \alpha_{\lambda} \) との間には以下の関係が成り立っています。

  • 点 \( l \) から赤道面へ垂線を下ろし、その足を \( p \) とする。
    子午線は赤道面に直交しているので、点 \( p \) は子午線面にあり、つまり線 \( O e_l \) 上にある。
    点 \( p \) から春分点と秋分点を結ぶ線へ垂線を下ろし、その足を \( q \) とする。
    線 \( l p \) は赤道面上の線 \( O q \) に直交しているので、 \( \triangle l p q \) は線 \( O q \) と直交する。
    つまり線 \( l q \) は線 \( O q \) と直交し、なおかつ黄道面上にある。
    これにより以下の式が成り立つ。
    \begin{align} \overline{O q} &= R_{Eq} \cos \lambda \\ \overline{p q} &= \overline{O q} \tan \alpha_{\lambda} \\ &= R_{Eq} \cos \lambda \tan \alpha_{\lambda} \\ \end{align}
    一方で
    \begin{align} \overline{l q} &= R_{Eq} \sin \lambda \\ \overline{p q} &= \overline{l q} \cos \varepsilon \\ &= R_{Eq} \sin \lambda \cos \varepsilon \\ \end{align}
    従って、
    \begin{align} R_{Eq} \cos \lambda \tan \alpha_{\lambda} &= R_{Eq} \sin \lambda \cos \varepsilon \\ \cos \lambda \tan \alpha_{\lambda} &= \sin \lambda \cos \varepsilon \\ \tan \alpha_{\lambda} &= \tan \lambda \cos \varepsilon \\ \alpha_{\lambda} &= \arctan \left( \tan \lambda \cos \varepsilon \right) \\ \end{align}

リートの製図に戻って、中心 \( O \) を通る \( \alpha_{\lambda} \) 度傾いた線と、黄道の円の交点が、黄経 \( \lambda \) の目盛りとなります。

黄道3

黄道の目盛りを幾何学的に作図する方法はいくつかありますが、一番簡単なのは下記の作図法です。

黄道4
  1. 黄道の極が投射される点 \( E_p \) を出す( \( E_p \) の座標は、 \( R_{eq} \tan \frac{\varepsilon}{2} \) )。
  2. そして、赤道の円周上で、中心 \( O \) から角度 \( \lambda \) 度の点を取る。
  3. 点 \( E_p \) から、この角度 \( \lambda \) 度の点へと線を引き、その延長線と黄道の円との交点を取る。
  4. この交点が、黄道の円で黄経 \( \lambda \) 度に当たる点(つまり黄経 \( \lambda \) 度の目盛り)である。

リートの恒星とルール

リートに恒星の位置を描きこんでいきます。
まずは赤道座標系がリートにどう投射されるかを整理します。

リートの赤経赤緯

ティンパンの地平座標では緯度ごとに傾きの変わるものをどうにかして赤道上の平面へと投射してきたわけですが、リートの赤道座標はそれより話が単純です。
リートの中心がそのまま北極・南極を貫く軸にあたっており、そして投射は南極から赤道面に対して行われるため、赤経座標は中心から放射線状に経度の角度通りに伸びる線となっており、赤緯座標は中心と同心の円となっています。

リートの赤経赤緯

なお、赤緯 \( \delta \) 度にあたる円の半径は、以下の数式で表されます。

  • 赤緯 \( \delta \) 度にあたる円の半径\( r_{\delta} \):
    \[ r_{\delta} = R_{eq} \tan \frac{90 - \delta}{2} \]

恒星たちの座標

描きこむ恒星を整理してそれぞれの赤経と赤緯をリストアップします。

すると、赤経 \( \alpha \) ・赤緯 \( \delta \) にある恒星は、リートでは次の位置にプロットされることになります。

  • 赤経 \( \alpha \) ・赤緯 \( \delta \) の恒星の、中心からの方向と距離:
    方向は赤経そのまま、中心から春分点を0度とすると \( \alpha \) 度の方向。
    中心からの距離は前出の通り \( R_{eq} \tan \left( \frac{90 - \delta}{2} \right) \) となる。
  • リートの中心を原点 \( O \) とした時の、赤経 \( \alpha \) ・赤緯 \( \delta \) の恒星の \( ( x , y ) \) 座標:
    \( x \) 座標: \( R_{eq} \tan \left( \frac{90 - \delta}{2} \right ) \cos \alpha \)
    \( y \) 座標: \( R_{eq} \tan \left( \frac{90 - \delta}{2} \right ) \sin \alpha \)

ルールの目盛り

赤道座標の投射図が分かれば、ルールが作図できます。
中心から赤緯 \( \delta \) 度にあたる円の半径までの長さが、ルールに刻むその度数の目盛りの位置となります。

ルールの目盛り

マーテルの製図

最後にマーテルを製図します。
ここでは特にヨーロッパ式のアストロラーべのマーテル背面について説明します。

イスラム式のアストロラーベでは、三角関数の算出目盛りや、太陽高度と現在地からメッカの方角を割り出すためのグラフ線などが描き込まれます……が、三角関数ちょっと流石にお腹いっぱいになってきたので勘弁してください

角度目盛りと黄経目盛り

マーテル表面と裏面の両方の縁にある角度目盛りは極めて単純です。
マーテルの円周を中心から水平・垂直に4分割し、そこからそれぞれの区分の縁を90等分するだけです。説明要るんか、これ。


裏面の黄経目盛りも同様です。が、

  • 中心から水平に分割した向かって右の縁の目盛りが春分点(黄経0度)
  • 向かって左の縁の目盛りが秋分点(黄経180度)
  • 中心から垂直に分割した上の目盛りが夏至点(黄経90度)
  • 下の目盛りが冬至点(黄経270度)

にあたっています。
黄経目盛りは、さらに以下の区分に分けられています。

  1. 黄経0度〜30度:白羊宮 ♈
  2. 30度〜60度:金牛宮 ♉
  3. 60度〜90度:双児宮 ♊
  4. 90度〜120度:巨蟹宮 ♋
  5. 120度〜150度:獅子宮 ♌
  6. 150度〜180度:処女宮 ♍
  7. 180度〜210度:天秤宮 ♎
  8. 210度〜240度:天蠍宮 ♏
  9. 240度〜270度:人馬宮 ♐
  10. 270度〜300度:磨羯宮 ♑
  11. 300度〜330度:宝瓶宮 ♒
  12. 330度〜360度(=0度):双魚宮 ♓

カレンダー目盛り

カレンダー目盛りも、基本となる目盛りの円自体は単純で、円周を単に365等分するだけです。

しかし「365日を目盛った円をどう配置するか」が鬼門で、春分点・夏至点・秋分点・冬至点に対応する日の目盛りがこなくてはなりません。
カレンダーを目盛った円をマーテルの中心と同心に配置してしまうと、これが成り立ちません。
で、どうするかというと、地球の公転軌道の離心率と、地球の公転軌道の長軸、そしてこの長軸が春分点−秋分点方向と作る角度を算出し、これに合わせてカレンダー目盛りの円の中心をマーテル中心からずらします。

地球の公転軌道は真円ではなく、わずかに楕円形をしています。
そしてその楕円の長軸・短軸の方向はわずかながら常に変化していて、約21000年周期で一周します。
現在の位置関係はおおよそ下図みたいな感じになっています。

カレンダー目盛り1

これを踏まえて、カレンダー円は以下のように作図されます。

  1. 地球の公転軌道の離心率を使って、マーテルの中心からカレンダー円の中心までの距離を出す。
    任意の日の地球の公転軌道の離心率 \( e \) は、J2000.0を基にしたユリウス世紀数 \( T \) を使って、次の式で近似される。
    \begin{align} e = ~ & 0.01670862 ~ - \\ & 0.000042037 ~ T ~ - \\ & 0.0000001236 ~ T^2 ~ + \\ & 0.00000000004 ~ T^3 \end{align}
    カレンダー円を描き入れる範囲の半径がマーテルの中心から \( r_c \) であるとき、カレンダー円の中心とマーテルの中心の距離は \( 2 e r_c \) とする必要がある。
  2. 地球の公転軌道の長軸が、黄経0度−180度方向に対して取る角度を出す。
    任意の日の遠日点の黄経 \( \Pi \) は、J2000.0を基にしたユリウス世紀数 \( T \) を使って、次の式で近似される。
    \begin{align} \Pi = ~ & 102.937348 ~ + \\ & ~~~~ 1.7195269 ~ T ~ + \\ & ~~~~ 0.00045962 ~ T^2 ~ + \\ & ~~~~ 0.000000499 ~ T^3 \end{align}
    ところでアストロラーベでは地球を中心として考えるので、遠日点と近日点の方向が反転する。
    つまり、カレンダー円の中心からマーテルの縁までは \( \Pi \) 方向が短く、 \( ( 180 + \Pi ) \) 方向が長くなることになる。
    作図するときには、カレンダー円の中心はマーテルの中心から \( \Pi \) 方向へ \( 2 e r_c \) だけ動かした位置に置かれる。
    マーテルの中心を原点 \( O \) とすると、カレンダー円の中心の座標は \( ( 2 e r_c \cos \Pi ~ , ~ 2 e r_c \sin \Pi ) \) である。
  3. カレンダー円の位置が決まったら、目盛りの開始位置を求める。
    目盛り的な関係上、12月31日の深夜0時を「1月0日」と考えて、これをカレンダー目盛りの開始位置とする。
    遠日点や近日点では平均近点角が0度なので、1月0日における平均近点角 \( M_0 \) を出すと、それはそのまま近日点から1月0日の位置までの角度(=黄経の差)となる。
    そこで近日点の黄経 \( ( 180 + \Pi ) \) に、1月0日の平均近点角 \( M_0 \) を加え、さらに現在地の経度 \( \lambda \) による世界標準時からの時差分にあたる角度を加味すると、それが現在地における春分点から1月0日の位置までの黄経 \( A_0 \) となる。
    \begin{align} A_0 = ( 180 +\Pi ) + M_0 + \left( \frac{\lambda}{360} \times \frac{360}{365} \right) \end{align}
    カレンダー円の中心から、この角度 \( A_0 \) を起点に円周を365等分すれば、カレンダー目盛りが得られる。
    なお、任意の日の平均近点角 \( M \) は、やはりJ2000.0を基にしたユリウス世紀数 \( T \) を使って、次の式で近似される。
    \begin{align} M = ~ & ~~~~ 357.52910 ~ + \\ & 35999.05030 ~ T ~ - \\ & ~~~~~~~~ 0.0001559 ~ T^2 ~ + \\ & ~~~~~~~~ 0.00000048 ~ T^3 \end{align}
    360を超えた分は、算出後に差し引いていく。

例として、東経135度における西暦2020年のカレンダー目盛りを作図してみます。
(本来は西暦2020年はうるう年なので一年の日数は366で算出しなくてはなりませんが、ここでは単なる作図例として、平年として作図します)

カレンダー目盛り2
  1. 西暦2020年1月0日、つまり西暦2019年12月31日のユリウス日は 2458848.5 なので、ユリウス世紀数 \( T \) は
    \begin{align} T &= ( 2458848.5 - 2451545 ) / 36525 \\ &= 0.19995893223 \end{align}
  2. 西暦2020年1月0日における公転軌道の離心率 \( e \) は
    \[ e = 0.01670020938 \]
    従って、マーテル中心からカレンダー円の中心までの距離は
    \[ 2 e r_c = 0.03340041876 \times r_c \]
  3. 西暦2020年1月0日での遠日点の黄経 \( \Pi \) は
    \[ \Pi = 103.281201144 \]
  4. 西暦2020年1月0日の平均近点角位置 \( M_0 \) は
    \begin{align} M_0 &= 7555.86075305246 \\ &= ~~ 355.86075305246 \\ &= ~ -4.13924694754 \end{align}
    これにより西暦2020年1月0日の目盛りの、カレンダー円中心からの角度 \( A_0 \) は
    \begin{align} A_0 &= ~ 279.5118172102 \\ &= -80.4881827898 \end{align}
    となるので、この角度を始点としてカレンダー円を365分割する。

シャドウ・スクエア

マーテル裏面の内側の下半分には、三角比から目標物の高さや距離などを求めるための目盛りである、シャドウ・スクエアが描かれます。
地面に棒(グノモン・圭表)を垂直に立て、その影から太陽の南中時刻や高度を測定したことが、このシャドウ・スクエアの起源でした。

シャドウ・スクエアの作図は極めて簡単で、正方形を横に2つ繋げた長方形を、マーテルの中心が上辺の中央に来るように描きます。
中央向かって右側の正方形の右辺と下辺と、向かって左側の正方形の左辺と下辺を、それぞれ同じ数で等分し、それを目盛りとします。

シャドウ・スクエア

正方形の辺を何等分するかにははっきりした決まりはなく、右は12等分・左は7等分みたいなことも珍しくありません。
ヨーロッパ式では1辺を10等分または12等分することが多いですが、イスラム式ではグノモンに7フィートの棒を使っていた由来から1辺を7等分した目盛りがポピュラーでした。

太陽高度−不定時曲線

マーテル裏面の内側の上半分には、太陽高度と現在地の緯度から不定時法での現在時刻を見積もるためのグラフ線が描かれました。
厳密にはこのグラフ線は高緯度になるにつれて少しずつ歪んでいくのですが、大体の見積もりは可能であることと、装飾的にも見栄えがすることから、描かれることが多くありました。

ただ、この太陽高度−不定時曲線は必ずしも描かれた訳ではなく、物によってはこの部分には何も描かれず空白となっていたり、これとは全く別の、定時法での時刻を求めるための曲線や、不定時法と定時法の変換を行うための曲線などが描かれたりすることもありました。

太陽高度−不定時曲線の作図も割と簡単です。

太陽高度−不定時曲線
  1. マーテル中心と同心の円を上半分だけ描き、その半円を中心から15度ずつ12個の孤に区切る。
  2. 弧を区切る11個の点を両端から順に対にしていき、そして対となる区切り点と元の半円の中心の3点を通る弧を作図する。
  3. 半円の半径が \( R \) のとき、それぞれの弧の半径は \( \frac{R}{2 \sin 15i} \) ( \( i \) は1から6までの整数)である。

アストロラーベの作り方・補遺

製図アプリ等紹介

以上、ヨーロッパ式で一番よく見るタイプのアストロラーベの製図法の紹介でした……が、こんな製図やってられっかとなった皆様、無理もないです。
このページを作った本人だってAdobe Illustratorを使っていてさえヘロヘロになりました。
昔の人はこれを少なくとも紙上でやっていたはずですが、想像するだに恐ろしいものがありますよ。
特にコンパス……中心がズレずに円を描けた人っている? 瀬野はコンパス使って中心がズレなかったことって文字通り「一度もない」ぞ……。

しかし広いこの世の中、この製図をやってくれるアプリや、緯度ごとに製図済みのアストロラーベをダウンロードできるサイトがあります。
ライセンスもとても良心的で、特に個人的に制作する場合など、ありがたく活用しない手はないでしょう。

  • The Astrolabe Generator
    緯度経度を設定すると、その緯度に合った各種形式のアストロラーベがEPS形式で出力されるという、Richard WymarcさんによるPC向けアストロラーベ製図アプリです。
    等高度線の間隔、トワイライト・ラインやハウス分割線の有無、背面のあれやこれや、果てはユニバーサル型アストロラーベや四分儀の作図といったことまでオプションで選択できるという、極めて高機能なアプリです。
    しかし起動にはJavaランタイムが必要なことと、出力形式がEPSなことから、画像編集に強いアプリを入れたPCでないと使えないという、アプリとしてはOut of Date気味なところが難点です。
  • Make your own Astrolabe
    イギリスの天文学者・Dominic Fordさんによる天文学解説サイトのコンテンツで、5度刻みの緯度で製図済みのアストロラーベ画像が用意されています。
    ダウンロードできる画像形式もPDF形式・SVG形式・PNG形式が選べます。
    リートは星図そのままなので、OHPシートに印刷するか、適宜加工する必要があります。
    ところでこちらのサイトの作図は、だいぶ古い時代の作図法を元にしているようで、リートの黄道目盛りが厳密には正確ではない(黄道を赤道面へ投射する際、リートの黄道の製図後半で解説した黄道の傾きによる角度の差が考慮されてない)ので要注意です。
    なお製図に使用したプログラムのソースコードが公開されているので、Python開発環境があるなら現在地の緯度に合わせた製図もできる……はず。

アストロラーベを金属に彫る

真鍮製のアストロラーベと言ったら好事家憧れのアイテムではございますが、真鍮でアストロラーベを作るには……
これどっちかと言うと彫金技法の説明になるんですが、話のついでだし手順をざっくり解説します。
彫金の腕に覚えのある方、頑張れ!

  1. なにしろこういう感じの複雑極まりない製図なので、金属に全てを一発描きするのはイマイチ現実的じゃありません。
    という訳で、紙に製図しておきます。
    現在に残る芸術的な価値の高いアストロラーベの中には設計者とデザイナーが別というものがありますが、そういうのはほぼほぼ事前に厚紙や木などによる試作があったと考える方が自然です。
  2. パーツ毎の製図ができたら、その製図した紙を、ずれないように木工ボンドとかデンプン糊とかで金属板にぴったり貼り付けます。
  3. 貼り付けた紙ごと金属板を切り抜いたり彫ったりします。
  4. 彫り終わったら紙とボンドを丁寧に落とし、仕上げをします。

PCで製図したアストロラーベを金属に彫るなら、次のような感じになります。

  1. 出来上がった製図を反転させて、レーザープリンター(コンビニコピーなど・インクジェット不可)で印刷します。
  2. 印刷した面を金属に付ける形で、印刷した紙を金属板に重ねます。
  3. 紙全体にアセトンを混ぜた無水アルコールをしっとりする感じになるまで含ませ、密着させるために上から重しをして放置します。
  4. アルコールが抜けて紙が乾いたら、今度は紙に水分を含ませながら金属板からはがすと、トナーが金属板の上に残ります。
    (トナーの転写方法には「紙と金属板を重ねてアイロンを押し当てるだけ」という方法もあるようです)
  5. トナーの線上を彫り、彫るところが彫れたらアセトン原液でトナーを落とします。

こっちの方法で実際にアストロラーベを作っている動画がこちら途中で全く別のものを作ってますが、ちゃんと本筋に戻るんでご心配なく。

なお、金属へのトナー転写には相当なコツとかTipsとかが必要なようなので、失敗してもめげずにトライアンドエラーの精神で頑張ってください。
PC製図のアストロラーベはエッチング技法を使ってもお手軽だと思います。


ところで以前とあるインフルエンサーがTwitterで「昔のアストロラーベの作り方を調べたらエッチングの手法で行うことが多かった」とtweetしてましたが、全く裏が取れません。
確かに、現在「昔の著名なアストロラーベのレプリカ」を制作・販売している海外の作家の多くは、エッチング技法で彫刻をしています。そら複製を繰り返し作るならエッチングが確実だもんな。
しかし歴史を考慮するなら、真鍮製のアストロラーベは7世紀には存在したという記録がありますが、エッチング技法の発明は15世紀半ば(しかも当初は鉄)、銅へのエッチング技法が安定するのは16世紀後半、そしてアストロラーベは17世紀後半には衰退してしまうので、時間的な長さを考えるとアストロラーベの製作手法のメインがエッチングだったとはとても思えません。
オックスフォード科学史博物館のデータベースでも、わりと量産してたジャン・フソリスゲオルク・ハートマンのものですら画像を拡大すると彫り跡が確認できるなど、つまりグレービング(タガネにより板を直接彫刻する技法)で制作されたものばかりで、アストロラーベの彫刻はグレービングで行われることが多かったと考える方が自然です。