土占術ハウスチャート 解説
アラブ世界で生まれたジオマンシーが中世のヨーロッパに伝わると、ヨーロッパの占星術師たちは、シールドチャートで算出されたシンボルを占星術のハウスに当てはめ、占星術の方法を流用して読むという手法を生み出しました。
これがジオマンシーのホロスコープ読みという奴です。
手短にいうと、手順は次の通り。
- まず4つのシンボルを作り、これらを「母」として4つの「娘」と4つの「姪」、そして「右の証人」「左の証人」「裁判官」を割り出す(シールドチャートと一緒)。
- 4つの「母」、4つの「娘」、4つの「姪」のシンボルを西洋占星術の12のハウスへ割り当てる。
- ハウスに割り当てられたシンボルから、そのハウスが象徴するジャンルについての動向をリーディングする。
…ところがですね、この、母・娘・姪をどのハウスにどう割り当てるかというのが、やり方によってバラッバラなのよ!!
日本で目にすることが多いのはアグリッパ第四書を基にした割り当て方と、黄金の夜明け団による割り当て方だと思うんですが、これがもう全然違うし、Wikipediaに載ってる割り当て方がこれまた全く掠らないという始末でして、本当になんとかしやがれくださいモノなんですわ!!
12ハウスの意味
まず、各ハウスが受け持つジャンルは以下の通り、というか占星術と同じです。知ってる人にはおなじみだよ!
- 第1ハウス(Asc・東の地平線):自分自身、生まれ持った資質や性格、生き方
- 第2ハウス:所有、金銭、価値観、稼ぐ力、稼ぎ方、自力で手に入れるもの
- 第3ハウス:知識とコミュニケーション、読み書きそろばん、近距離の移動や旅行、兄弟姉妹や隣人
- 第4ハウス(IC・地の底):家庭、母親、先祖、自分の居場所、不動産、安全、晩年
- 第5ハウス:恋愛、趣味、娯楽、子ども、楽しい事、創作、表現、ゲーム、ギャンブル
- 第6ハウス:奉仕、貢献、健康、労働、実務、雇用、使用人、部下、ペット
- 第7ハウス(Des・西の地平線):結婚、パートナー、対人関係、ライバル、裁判、戦い、対立、人間関係
- 第8ハウス:セックス、死、遺産、継承、相続、共有、融資、借金
- 第9ハウス:哲学、高等な学問、学術、思想、宗教、外国語、海外、遠距離の移動や旅行
- 第10ハウス(MC・天頂):地位、名声、キャリア、ステータス、達成、天職、社会的な最終目標
- 第11ハウス:友人関係、コミュニティ、グループ活動、クラブ、人脈、願望、希望
- 第12ハウス:秘密、深層意識、潜在意識、神秘、オカルト、メディア、ネット、形のないもの、見えない敵
ところで、ジオマンシーの文献では四角い形のハウスチャートを見ることが多いですが、これは古典占星術の頃のホロスコープチャートは四角い形で書かれていたことの名残です。
「現代西洋占星術の父」と呼ばれるアラン・レオ(*1860〜†1917)以降、現代ではホロスコープチャートは円形で書かれるようになりました。
その方が惑星同士の角度を見るのに段違いで都合がいいからね!
ジオマンシーでもシンボルをこの円形のチャートに入れこんで解説しているものもありますが、ハウス位置の読み替えは以下の図のようになります。
なお、四角い形で表現される昔のチャートの読み方は、角度の取り方が現代の円形のチャートほど厳密ではありませんでした。
チャートが四角かった時代では、AscやMCなどの軸やカスプを、ハウスの境界「線」としてではなく、「Asc≒1ハウス」「MC≒4ハウス」のようにハウスの「面」のように捉えることが多かったようです。
アスペクトの概念も非常にゆるく、「惑星が同じハウスにあれば合」「1ハウスにある惑星と4ハウスにある惑星はスクエア」のような捉え方がされており、ジオマンシーのハウスチャートでもアスペクトはこの形で解釈がなされます。
アスペクトとオーブという概念が発達したのは、円形チャートが使われるようになった19世紀末以降のことです。
黄金の夜明け団式ハウス割り当て
まず、19世紀のイギリスにあった秘密結社・黄金の夜明け団由来のハウス割り当て。
魔術はもちろん占い分野でも黄金の夜明け団ったら元ネタの宝庫です。目を通して損はあり得ないです。
ただ、これは厳密にはアレイスター・クロウリーの 「A Handbook of Geomancy(ジオマンシー手引書)」 (→ 和訳はこちら)に掲載された方式です。
- 第1ハウス(Asc) ← 2の母
- 第2ハウス ← 2の娘
- 第3ハウス ← 2の姪
- 第4ハウス(IC) ← 3の母
- 第5ハウス ← 3の娘
- 第6ハウス ← 3の姪
- 第7ハウス(Des) ← 4の母
- 第8ハウス ← 4の娘
- 第9ハウス ← 4の姪
- 第10ハウス(MC) ← 1の母
- 第11ハウス ← 1の娘
- 第12ハウス ← 1の姪
特徴はMCに1の母、Ascに2の母…という順で、アンギュラーに当たるハウスに母を、サクシーデントのハウスに娘、カデントのハウスに姪を割り当ててること。
アンギュラー・サクシーデント・カデントが何かって話は、とりあえずこのページをみている「その目の前のなんちゃら」で検索してみてね! なんせ占星術の理論は沼だよ! 歴史の厚みが半端じゃないよ!
ただ、アンギュラーハウス(1、4、7、10ハウス)は占星術でも重要視されるハウスで、中でも特にMCの10ハウスは人生の目標を、Ascの1ハウスは自分自身を表すとして最重要視されるハウスなので、ここに、シールドチャートでの第1トリプリシティ(注:古典占星術のディグニティではない)に当たる1の母と2の母を割り当てているのは「自分の事情は大事!」みたいな印象があります。
ところで「A Handbook of Geomancy」には、どのシンボルがどのハウスにあったらどう読むかということをまとめた表が掲載されてるのですが、この中に「1ハウス(2の母)にルベウスまたはカウダ・ドラゴニスが来たらそのチャートは御破算にする。再占するなら2時間以上たってからにしろ」ということが書かれてます。
タロット解釈で黄金の夜明け団の説が流布することになったのは、時代が近くて体系だった資料が残されているという以上に、話が整理されていて非常に洗練されてるってこともあると思う瀬野です。
このジオマンシーのハウスの割り当て方も、各方面の話を十分検証した上で定めたような印象があります。
アグリッパ式ハウス割り当て
16世紀初めのルネサンス時代にドイツで活躍した神秘家・アグリッパの名前で出された魔導書「オカルト哲学・第四書」の英訳本に収録された小編「Of Geomancy(ジオマンシーについて)」(→ 和訳はこちら)で提唱されているハウス割り当て。
もろもろ流派のある中で、おそらく古くから比較的広く認識された方法ではないでしょうか、分かりませんが。まあ、とにかく古くからある説であることはわかるんですが、どこまで真に受けていいかはとにかく分かりません。
魔術系の資料サイトでこの資料は一次資料としてよく取り上げられているのと、これ本当にアグリッパが書いたのか検証しようとすると見事に泥沼なので、この方法はとにかく割とメジャーだった!ということにしておきたいです。そういうことにしておきましょう。そうしておいてください。
古来より伝統的に伝えられてきた読み方という訳ではなく、どうやら「Of Geomancy」を精読する限り、文書内で(少なくとも17世紀までに)新たに提唱された割り当て方のようです。
ただ、魔術系の資料サイトでこの文書がよく取り上げられているのは事実でして、要は「オカルト哲学・第四書」の英訳本の流布とともにメインストリームに躍り出るようになった割り当て方だと思われます。しかし、この方式、瀬野には原著を読み下すだけで一杯一杯でした。あまりツッコまれたら持病の鬱が悪化します。マジ勘弁してくださいおながいです!!!(号泣)
- 第1ハウス(Asc) ← 1の母
- 第2ハウス ← 1の娘
- 第3ハウス ← 3の母+2の娘
- 第4ハウス(IC) ← 4の母
- 第5ハウス ← 4の娘
- 第6ハウス ← 2の母+1の娘
- 第7ハウス(Des) ← 3の母
- 第8ハウス ← 3の娘
- 第9ハウス ← 1の母+4の娘
- 第10ハウス(MC) ← 2の母
- 第11ハウス ← 2の娘
- 第12ハウス ← 4の母+3の娘
アンギュラーに当たるハウスに母を、サクシーデントのハウスに娘を割り当ててるのはかろうじて分かるんですが、カデントが激しく謎です。曰く「アンギュラーハウスとサクシーデントハウスから、トリプリシティの規則によって計算する」ということなんですが、要するに「姪ガン無視」ということしか分かりません。
というかですね、原著の英訳読んでて目がピヨピヨしました。誤記は多いし図は間違ってるし外道だよ!
修正アグリッパ式
ところで、高橋桐矢先生による2013年発行の旧版ジオマンシー本では、これをもっと整理したハウス割り当てが紹介されてました。
こんな感じ。こちらを伝統的な方法として紹介している海外サイトも見かけました。
- 第1ハウス(Asc) ← 1の母
- 第2ハウス ← 1の娘
- 第3ハウス ← 1の姪
- 第4ハウス(IC) ← 4の母
- 第5ハウス ← 4の娘
- 第6ハウス ← 4の姪
- 第7ハウス(Des) ← 3の母
- 第8ハウス ← 3の娘
- 第9ハウス ← 3の姪
- 第10ハウス(MC) ← 2の母
- 第11ハウス ← 2の娘
- 第12ハウス ← 2の姪
うん、さっきのに比べたら全然マシだ! 瀬野はSAN値が上がった!!
もうね、見てて心が蘇る感じがしますよ本当に。
なお、高橋先生の2018年発行の新版ジオマンシー本では、ハウスチャートの解説は割愛されてます。これについては高橋先生がご自身のtwitterで理由を言及されてましたので引用します。
そもそも、ホロスコープ読みが成立した理由。
現代はパソコンで天体の位置を一発で出せるけれど。ヨーロッパでジオマンシーのホロスコープ法が確率された16世紀、天体の位置を計算することは、天文学者兼占星術師の仕事で、とてつもなく難しかった。つまり、天上の星を正確に観測することが難しすぎるから、地上の星=ジオマンシーシンボルを、ホロスコープに配置してみました、っていうのが、そもそもホロスコープ法という手法が生まれた理由なわけで。
でもホロスコープが簡単に出せる今。わざわざジオマンシーをあてなくても、普通の西洋占星術でいいんじゃない? ってことです。
それと、ホロスコープ法は、配置のしかたが種々あって、どれが正当とも言いがたいという理由もあります。
さらに、実際に使ってみて使いにくかった、という理由も!ただ、ホロスコープ法がよくないというわけではないので、ホロスコープ法が掲載されているジオマンシー本旧版をもっている方は、それはそれでレアと思います。
引用:
https://twitter.com/kiriya_t/status/1001749313322602499
https://twitter.com/kiriya_t/status/1001749649315655680
https://twitter.com/kiriya_t/status/1001750332978823168
https://twitter.com/kiriya_t/status/1001751176747008001
クレモナのジェラルド式ハウス割り当て
Wikipediaのジオマンシー項で説明されている割り当て方。
それにちょっとこれ典拠が不明だし、Wikipediaだけに過信も無用。
だけど例の一つとして載せときます。詳細分かったら追記します。
このページを作った時は詳細不明だったんですが、上記「Of Geomancy」を精読してたら、旧来の方法としてこの割り当て方が記載されてました。
おそらく16〜17世紀時点ではこの方法が伝統的なハウス割り当てだった模様で、遡れる典拠としては、12世紀のイタリア人翻訳家・クレモナのジェラルドによって紹介された、ジオマンシーと占星術を結びつけた方法を記した文書「On Astronomical Geomancy(天文学的ジオマンシー)」です。
なので便宜上ジェラルド式と命名しとくよ!
- 第1ハウス(Asc) ← 1の母
- 第2ハウス ← 2の母
- 第3ハウス ← 3の母
- 第4ハウス(IC) ← 4の母
- 第5ハウス ← 1の娘
- 第6ハウス ← 2の娘
- 第7ハウス(Des) ← 3の娘
- 第8ハウス ← 4の娘
- 第9ハウス ← 1の姪
- 第10ハウス(MC) ← 2の姪
- 第11ハウス ← 3の姪
- 第12ハウス ← 4の姪