ユニバーサル・アストロラーベ(サフェア)の使い方 | Luminareo

ユニバーサル・アストロラーベ(サフェア)の使い方

2022-06-28

ユニバーサル・アストロラーベ(サフェア)の使い方

ティンパンを入れ替えることなく全世界で使用可能なユニバーサル・アストロラーベ(汎用型アストロラーベ、万能アストロラーベ)のうち、比較的メジャーな種類であるサフェア・アルザケリス(サフェア)の使用方法を解説してみるぞ。
異なるリートを持ちますが設計理論が同じであるユニバーサル・ラミナも、このページのものとほとんど同じやり方で使います。目的とする座標の位置を定めたら単にラミナ・リートを回すだけですな。下の盤面の座標が見分け辛いことがひたすら難点ですが。


なお、サフェア・アルザケリスのパーツ名は以下の図の通りです。
サフェア盤は天球を春分点・秋分点から分至経線(夏至点・冬至点と両極を通る大円)へ、つまり赤道面に垂直にステレオ投影したものです。
サフェア盤の盤全面が天球全体を、盤の中央が春分点・秋分点を表し、地平線はレグラで表します。
だからもし恒星をプロットするなら盤面に刻むのです。ここに恒星の指標を載せたリートを重ねて回転させても意味ないよ。

サフェア・アルザケリスのパーツ

任意の日の太陽の赤経と赤緯を求める

例えば、5月1日の太陽の赤経と赤緯を調べてみます。
これはサフェア盤の盤面だけで算出できます。

  1. 縁ないし裏面のカレンダー目盛りから5月1日を探し、対応する黄道目盛りを読むと、およそ金牛宮10度とわかります。
    この日太陽の黄経は金牛宮10度にあります。
    任意の日の太陽の赤経赤緯1
  2. サフェア盤面で、黄道線の目盛りから金牛宮10度の点を探します。
    任意の日の太陽の赤経赤緯2
  3. サフェア盤全体を縦方向に走る目盛りから金牛宮10度の点の座標を読み取ると、それがそこにある太陽の赤経の値です。
    同様に、サフェア盤全体を横方向に走る目盛りから金牛宮10度の点の座標を読み取ると、それがそこにある太陽の赤緯の値です。
    この例の場合、赤経は約38度(または 2h 30′ )、赤緯は約15度と読めます。

この使い方は、次の方法と合わせて使います。

太陽の赤緯がわかっている時、任意の緯度での太陽の南中高度を求める

例えば、太陽の赤緯は+15度で、現在地の緯度は北緯35度とします。

  1. レグラを赤道線に合わせ、ブラキオルスの先端をサフェア盤の外周の15度に合わせます。
    太陽赤緯と現在地の緯度から南中高度の算出1
  2. レグラとブラキオルスの位置関係を保ったまま、レグラを極距離(90度-現在地の緯度)の角度に合わせます。
    この例ではレグラの先端を55度に合わせます。
    太陽赤緯と現在地の緯度から南中高度の算出2
  3. するとブラキオルスの先端が太陽の南中高度を差しています。
    今の例では、北緯35度の場所では太陽赤緯15度のときの南中高度は70度ということがわかります。
    ちなみにここで行ったのは(90度-現在地の緯度+太陽の赤緯)の式をレグラとブラキオルスで表しただけです。

この逆が同様にできます。
つまり太陽の赤緯がわかっている時に太陽の南中高度から現在地の緯度を求めることができます。

  1. レグラを赤道線に合わせ、ブラキオルスの先端をサフェア盤の外周で南中高度(今の例では70度)に合わせます。
    太陽赤緯と南中高度から現在地の緯度の算出1
  2. レグラとブラキオルスの位置関係を保ったまま、ブラキオルスの先端が太陽赤緯(今の例では15度)にくるように回転させます。
    太陽赤緯と南中高度から現在地の緯度の算出2
  3. するとレグラは盤(天球)の中で現在地の緯度の地平線となり、レグラの先端は現在地の緯度の度数を指しています。

天体の赤道座標を黄道座標に変換する

赤道座標から黄道座標へ、または黄道座標から赤道座標への変換は、非常に計算が厄介ですが、サフェア・アルザケリスではごく簡単に解ける問題です。

例えば、黄経40度・黄緯50度を赤道座標に変換します。

  1. まずはレグラを赤道線に合わせて、ブラキオルスの先端を盤面の目盛りの経度40度・緯度50度に合わせます。
    黄道座標から赤道座標へ変換1
  2. レグラとブラキオルスの位置を保ったまま、レグラを回転させて黄道線に合わせます。
    黄道座標から赤道座標へ変換2
  3. するとブラキオルスの先端が指すのが、変換先である赤経と赤緯です。
    この例では、黄経40度・黄緯50度を赤道座標に変換すると、赤経は約30度(または 2h )・赤緯は約55度になります。

赤道座標から黄道座標への変換も、これと全く同じ動作で行います。

任意の緯度で任意の日の、太陽の日周軌道と日の出・日没時刻を求める

この問題ではブラキオルスは使いません。

北緯35度における5月20日の日の出時刻・日没時刻を例にとります。

  1. まずは太陽の黄経を求めます。
    縁ないし裏面のカレンダー目盛りから5月20日を探し、対応する黄道目盛りを読むと、およそ金牛宮29度とわかります。
    太陽の日周軌道と日の出・日没時刻1
  2. サフェア盤面で、黄道線の目盛りから金牛宮29度の点を探すと、この日の太陽の赤緯は約20度であることが分かります。
    太陽の日周軌道と日の出・日没時刻2
  3. 盤面上で、この太陽の赤緯の弧(横方向の目盛り)を確認します。
    この弧が、(世界共通で)その日の太陽の盤面上での日周軌道に当たります。
    太陽の日周軌道と日の出・日没時刻3
  4. レグラを現在地の緯度の地平線に合わせます。
    北極から天頂までの角度(極距離)分動かせばそれが地平線となります。
    レグラ(地平線)と太陽の日周軌道の交点が、日の出または日没のポイントを表します。
    盤の外周は子午線にあたります。
    太陽の日周軌道と日の出・日没時刻4
  5. 盤面の縦方向の目盛りのラベルが、地方時での時刻を表しています(時角)。
    上向きのラベルから、この例の北緯35度における5月20日の日の出の時刻は地方時で午前5時ごろと読めます。
    下向きのラベルからは日没時刻が読み取れて、この例では地方時で午後7時ごろとなります。

なお、サフェア・アルザケリスでも時刻はすべて地方時で表されます。
標準時との時差にはご留意ください。

任意の緯度で、任意の日時の太陽の高度を求める

前の例題に引き続き、北緯35度における5月20日の場合を例にとります。
この例題ではレグラとブラキオルスを使用します。

  1. 前の例題と同じく、日付から太陽の黄経を求め、サフェア盤面で太陽の黄経から赤緯を確認し、この日の太陽の赤緯の弧(日周軌道)を確認します。
    任意の日時の太陽の高度1
  2. そしてまた前の例題と同じく、レグラを現在地の地平線の位置に合わせます。
    任意の日時の太陽の高度2
  3. ブラキオルスの先端を、太陽の赤緯の弧(日周軌道)上の、高度を求める時刻の時角の弧との交点に合わせます。
    例えば、この日の午前10時または午後2時の太陽高度を求めるとします。
    太任意の日時の太陽の高度3
  4. レグラとブラキオルスの位置を保ったまま、レグラを盤面の赤道線に合わせます。
    すると、ブラキオルスの先端が指す横方向の目盛りが、その時の太陽の高度となっています。
    北緯35度における5月20日午前10時(または午後2時)の太陽高度は約60度です。
    任意の日時の太陽の高度4

太陽や恒星の高度から現在時刻を求める

平面アストロラーベではごく簡単にできる基本的でお馴染みの使い方ですが、この問題はサフェア・アルザケリスでは簡単には解けず、むしろ複雑な手順を踏む必要があります。

  1. 太陽または恒星の高度を測定し、現在時刻を推定する。
  2. レグラを、現在地の緯度に対する極距離の角度(90度−現在地の緯度)だけ回転させ、地平線に合わせる。
  3. ブラキオルスの先端を、太陽または恒星の赤緯の弧と、推定した現在時刻の時角の弧の交点に合わせる。
  4. レグラとブラキオルスの位置を保ったままレグラを盤面の赤道線に合わせ、ブラキオルスの先端の座標を記録する。
  5. ブラキオルスの先端が測定した高度に対応する弧上にある場合、現在時刻は推定した通りである。
  6. ブラキオルスの先端が測定した高度にない場合は、ブラキオルスの先端を動かして、4. と5. の手順を繰り返す。

そんな感じで、アストロラーベの本領とも言うべき現在時刻の算出が面倒だったことから、ほとんどのサフェア・アルザケリスの裏面には平面アストロラーベがあしらわれていました。